【ミュージカル/GREY】この歌をお守りにして、曖昧な世界で生きていく
この歌をお守りにして、曖昧な世界で生きていく
2021年12月18日土曜日、雲一つない晴天。
旅先で天気がいいと、その土地に歓迎されている気がするのはなぜだろう。
観劇して、内容を咀嚼しきれないまま友達と久しぶりのお茶をして久々の東京を楽しんだ。
帰りの飛行機で、舞台の内容を反芻してパンフレットを読みながら号泣していた。
この歌は、私にとってお守りのような歌になった。
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12月17日、金曜日。
私は職場を出たその足で北海道から東京へ向かった。思えば二年ぶりの飛行機だった。自衛もあったけど、見えない何かに遠慮し続けた数年だった。
私にとって旅行は、自分を調律する感覚に近かった。GREYのチケット、宿泊先飛行機の手配をしたのは10日ほど前。なぜだか「やってやったぞ!」という思いでいっぱいだった。思っていたより思い立って旅行に行けないフラストレーションは貯まっていたみたいだ。
雪一つないアスファルトをワクワクしながら歩いていて、ホテルについたころには12時を回っていた。
なかなかGREYの感想にたどり着かなくて申し訳ないのだが、このブログは自分の想いを残しておきたいという趣旨があるので少しだけ経緯を書いておく。
(興味のない人は飛ばしていいところだ)
まほステと矢田さん
観劇のきっかけは、約一年前に始めたアプリゲーム「魔法使いの約束」(以下まほやく)。その舞台(以下まほステ)を、自宅にてライブビューイングしたことだった。
私はアニメも漫画もミュージカルも演劇も大好きだけど、それぞれ別畑だと思っていたし、それぞれの良さの中で楽しめればいいという思考だったので、メディアミックスというか、実写や舞台にそれほど興味を持つことはなかった。
しかしtwitterという世界は恐ろしいもので、観劇帰りの人たちのハッピーな感情がこちらにえらく影響を及ぼす。
私は1年かけてゆったりまったり楽しむはずだったそのゲームに深くふか~くハマってしまい、もう何でも楽しいものは吸収していきたい!浴びたい!とアドレナリンがドバドバの状態だった。
『これは見ないのはもったいないのではないか?』(興味なかったのに大丈夫?がっかりしない?)
『っていうか見たいだろ!私!!もはやだいぶ興味持ってるだろ!見てから自分の感情と向き合え!!』
私は何かと理屈をつけて深入りしないようにする癖があるのだけど、好奇心が旺盛なため、興味の矛先が明確になると突き進むことしかできなかった。
(夜中の3時に、私にプレゼンをしてくれていた友人とディレイビューイングのチケットの購入ボタンを押した時は本当に楽しかった。)
当日は受け入れられるのか、かなりドキドキして見た。
(コロナは私たちから色々なものを奪ったけど、エンタメの配信の技術には感謝している。今後も続けていただきたい)
舞台と聞いていたのだがめっちゃ歌うやん…。ミュージカルってこと…?ん?…うま…うまいやん…踊るやん…。楽し…え、たのしい。たのしいやん!
―結果11月21日の千秋楽の回を目をつむれば、音を聞けばそのシーンを思い出すくらい見込んで、私にとって随分思い入れのある舞台の一つとなった。
(まほやくの舞台についてもいつか書き残したい!)
中でもファウストという役を演じていた矢田悠祐さんという演者さんの声に魅了された。
ファウストはまほやくの中でも大好きなキャラで、矢田さんの整った顔で発言をし、立体で動いていることに謎の感動を覚えた。しかし、本当に驚いたのは歌いだした瞬間だった。綺麗なビブラートで振るわされる空気の圧が画面越しでも伝わった。
少しハスキーな声色で、綺麗に当たる高音も、ブレスも、声を出し切る瞬間もどこかセクシーで、体いっぱい全力で歌い上げる姿に、ひどく感銘を受けた。
矢田さんに出会わせてくれて本当にありがとう。まほやくをやっていてよかったと心から思った。
(まほステの話はまたどこかで。)
彼の歌がもっと聴きたい…、そう思ってyoutubeを検索。
こちらを見つける。
矢田さんはピアノと歌が得意だそうで、こちらでは死ぬほどオシャレな「おさかな天国」他ジャズバーにいるような気分を味わえる。
ぜひ聞いてみてほしい。しゃくりが心地よすぎではないか?歌うまお化けである。
長くなったがこういった経緯があって
「こうなったら生の歌が聴きたい」
と強く思った。
調べたら12月に主演でミュージカルをやるという情報を仕入れた。
少し内容が重たそうなミュージカルだというのが懸念だった。
しかし、冒頭に紹介した第3段のPVを聞いてから、すっと不安が消えた。
私はこの舞台を見たい。
勢いと縁のおかげで、祝日のない12月に絶望していた脳みそに活を入れるべく様々な手配を済ませ東京の地を踏んだ。宿泊先のホテルの近くにあった歌舞伎座のライトアップがきれいで、到着からテンションは絶好調だった。
俳優座へ
北海道往復の飛行機と朝食付きの一泊で18000円。楽天パックに感謝しかない。朝食のカレーは美味しかった。
家族が劇団四季好きで、家のなかではオペラ座の怪人がよく流れていた。私は、言葉以上に心に響く「歌」が大好きで、理解する前にメロディーで納得(いい意味で)させられてしまうミュージカルが大好きだ。
役者さんが縁で観劇をする、ということがほとんどなかったので新鮮な気持ちだった。
どんな会場なんだろう。どんな演目なんだろう。
会場の時間に合わせて、晴れた六本木を進む。アプリを確認してあの建物だと目星をつける。
白くて大きな建物の隣には物々しい青いバスが止まっており、外から見えないようになっているから役者さんが乗ってくる乗り物かな。なんて考えていた。
建物の入り口あたりについて中を覗くと「免許更新」という文字が見えた。
目星をつけた建物は警察署で、物々しいバスは護送車だった。
私は何食わぬ顔でアプリを再確認し、Uターンして俳優座へ向かった。
GREY
※舞台やパンフレットの内容やネタバレにあたる記載がでる可能性があるのでご注意ください
舞台上には無機質な枠がまばらに幾重に重なった装置が組まれていた。
今回は、少し過敏な部分がある自分の心を労わって、刺激を受けすぎないように最後列のチケットを取った。会場の広さ的に、最後列に座っていた私にも、役者さんの表情がよく見えたし、全体を見渡せて結果とてもよかった。
開始の鐘がなり、客席のライトがゆっくりと暗くなる。
チェロとピアノ、ドラムとギターの生演奏だということにも驚いた。
GREYは、リアリティ番組に出演していたシンガーソングライターの女性『shiro』が自殺を図ったというところから始まり、時をさかのぼって、7人の登場人物の心と生きざまに焦点を当てた「現代を生きる人々」の物語だった。
物語の登場人物には、みんな名前に色が入っていた。
藍、白、金銀、橙、紫、黒、茜。
きっとこの舞台を見た人は、登場人物の誰かに、どれかの色に、どこかに、自分を重ねる。
作品の中にはSNSでの言葉をどう受け止めていくかが描かれる部分があり「今」の話なんだと感じる。
SNSの発達によって、一人一人が沢山の人と瞬時にやり取りできるようになったこの時代。反面、その距離の近さや断片的な発言を見ただけで「何かを知った気になった言葉」が真っ向からふりかかってくる時代。あらゆる言葉や情報に、自分の感情が操作される時代。こういう自分になりたくて、あんな自分を認めたくなくて、だれかの目が気になって、誰かにこうやって映っていたくて、誰かを傷つけてしまう。
傷つける側の深層心理も、傷つけられた側の心の蝕まれ方も、どちらも平等に描いている作品だった。
凡庸なハッピーエンドはつまらないと豪語していた矢田さん演じる藍生(あおい)は、自分の凡庸さに向き合えず、成功する後輩shiroへの醜い思いを募らせ、心配してくれた親友にもつらく当たる。身体に不調も現れ、まさしく息詰まる。
苦悩があふれるソロは怖くもあり、美しかった。
デビューの決まったshiroは、親から与えられなかった愛情を、同じような境遇の人に歌で届けたいと明るくふるまう。まるで天使のような歌声と笑顔は私も大好きになってしまった。しかし、少数のアンチの言葉に心をむしばんでいく。
娘を交通事故で無くした夫婦。先の見えないアナウンサー。
後半に行くにあたってどんどん闇が深くなるし、同時に「向き合わなければいけない自分の中の自分」がそれぞれ見えてくる。
shiroが追い詰められていくシーンで、言葉そのものが重なるようにマッピングされて行って、どの言葉も平等に受け止めていったshiroが、表情を無くし、からっぽのシルエットのように見せたライティングの演出は、思わず息をのんだ。
じっくりと考えれば、押しつぶされそうなテーマを、コミカルな演技と、メリハリのある展開で、浸らせて、考えさせてくれた。
(物語が重くなりすぎない要因の一つとして遠山祐介さん演じる「久世橙」さん。ダンスのキレがの素晴らしかった!最高に美しい角度の土下座がみられる曲があり、必見である)
こちらでチラ見できる。
観劇を終えて
音楽も、演者さんも、歌も、演出も素晴らしかった。
それぞれの役柄を踏まえて、もう一度GREYを聞いた。
私は「自分の本当の声を無視してはいけない!この時代だからこそ!」と強く思った。
ここも読み飛ばしていいところだが、自分の気持ちを無視して突き進むと本当に人は簡単に壊れる。体験談だ。
パンフレットで作曲家の桑原真子さんの「いい子って言わないで」を自分と重ねて読んでいた。
幼少期、親が良しとすることが正解だった。自分が好きでもやりたくても、良しがでないとだめなので、自然と親が喜ぶであろう選択をしてきた。絵を描くのが好きで、そういう学校に行きたかった。勇気を出して言ってみたものの怪訝な顔をされ、現実味のないものにお金は出せないと言われた。我を通せばよかったものを、自分のやりたいことはダメなことなんだと、否定されたことに関してどんどん自身が無くなっていった。親が喜びそうな進路を選んで進学した。どうなるか。自分の判断に自信がない人間が出来上がった。何を選ぶにも親がどう思うかを考えてしまってある日ぷっつりと何かが切れた。就職活動に失敗して、何度か転職もして、それでも長く続かなくて、落ち込んでひきこもっていたときに母と言い合いになった。
ヒステリックに「あんたが思い通りいったことなんてひとつもない」と言われた。
親基準で喜ぶ判断をしてきたはずなのに、おかしい。一通り傷ついてみて、泣くのに飽きたころ、なんかほんとうにどうでもよくなった。
今は紆余曲折の末自分に合った職につけて、やっていっている。(※上に書いた状態の時もなんだかんだもがいていたので、楽しむことは楽しんでいた。)
「こうあるべき」という白黒はっきりつけるような言葉が苦手で、言い切るのが苦手で。何かを判断しなくちゃいけない時が来るのはわかっているけど、GREYはあいまいな部分も許容してくれている歌に聞こえた。
「ゆっくりと、時間をつかって向き合う」代表の宋さんの言葉だ。
何かにいつも焦って、時間が足りなくて、ゆっくりじっくり自分や、大事にしたい人や、物事に向かう時間がどれだあったか考えさえてくれた。
叩いたり叩かれたりの悲劇、つまり暴力はなぜ繰り返されるか抱えている本質は何で、解決のカギはどこにあるのか、考えていきたい。そういった上で現代を肯定したい、祝福を送りたい
そういって物語を作ってくれた脚本の板垣さんの言葉にも救われた。
いつも二律背反の気持ちを抱えているけど、罪悪感を覚えなくていい。
自分の言葉でしゃべって。
無様でいいからもがき続けたい。
自信を持ちたいんだ。
この空の下で同じ痛みをもつ
ひとりひとりの
涙をあつめて
東京に来る前に、何度も聞いたこの曲だったけど、
自分が忘れたくないなと思うことをぎゅっと詰め込んだ曲だった。
舞台を見て、7人の登場人物の人生を垣間見せてくれたおかげでより深く、歌詞が入り込んできた。
まっすぐまっすぐ力強く歌われる楽曲に、登場人物の気持ちを想う。
力強くて背中をおしてくれそうな高橋さんの歌声が好き。
芯があって伸びやかな竹内さんのビブラートが好き。
優しく染みる皆を包んでくれる羽場さんの低音が好き。
青い空みたいに広がる、遠山さんの発音が好き。
軽やかでそれでいて高らかに響く、梅田さんのお声が好き。
矢田さんのソロでのコーラス。あなたの空気の震わせ方が大好き。
途中高音で入ってくる佐藤さんの歌声が、本当に好き。
言葉は、受け止める人の状況、感情で大きく変わる。変わっていい。変わることを知っていればいい。
かくいう私はSNSが好きだ。狭い世界から何度も救ってくれた。少しずつ、自分の心に整理を付けて、もっともっとこの曖昧な世界を楽しんで生きていきたい。
演劇の内容よりも歌の感想が多くなってしまったが、途中の愚痴のような私情含め、これが私ということで。
「じぶんのことばでしゃべって」を実行すべく書き残します。
この演目にめぐり合わせてくれた様々な縁に、導いてくれた矢田さんの歌声に感謝を。
GREYという演目を、歌を、お守りにしてこの曖昧な世界を生きていきたい。
最後に
この記事を書いている間にGREYのレコーディング時の風景が公開された。
GREYは現在折り返し、12月26日までやっているそうだ。
演者さん全員歌が!!うまい……っ。染みる…。
配信もやっているし、作中で歌われる25曲の楽曲、演奏・歌・演出もともに最高。
ご興味のある方は、ぜひ配信または劇場まで見に行ってみたはいかがでしょうか。
▽公式サイト